9-1.jpg 最近は日本でもプラントベースのお肉が普及して、スーパーで手軽に購入したり、レストランのメニューでも目にしたりすることがあるかと思います。ここシンガポールでは、「プラントベース肉」のさらに先の「培養肉」が2020年に世界で初めてレストランで提供されました。

 今回は、環境問題にも関係する「代替肉」について、シンガポールならではの背景も踏まえて紹介します。

肉を食べることで発生する大量の温室効果ガス

9-2.PNG FAO(国際連合食糧農業機関)によるとGHG排出量の約12%が畜産関連によるもので、農産物全体の約40%に相当するそうです。特に牛はゲップに含まれるメタンガスの他、飼育するための餌、水、加工や輸送などの過程で排出されるカーボンフットプリント(1kg生産するために発生したGHG)が他の食品よりも圧倒的に多いことが研究からも示されています(Ritchie and Roser 2020)。また、畜産による森林伐採も環境問題の一つです。

 そんな環境負荷を軽減できることから、また、健康志向の高まりや衛生面、アニマルウェルフェアの観点からも、「畜産肉」の代わりとして「代替肉」の注目が世界的に高まっています。

「代替肉」「プラントベース肉」「培養肉」とは?

 「代替肉」とは、従来の家畜肉の代替として作られた食品のことを指します。
 「代替肉」は大きく分けて二種類あり、大豆などの植物由来の原材料を使い、肉の食感に近づけた「プラントベース肉」と、動物の細胞を人工的に培養して作る「培養肉」があります。

 従来からある「プラントベース肉」でも、環境負荷やアニマルウェルフェアなど畜産に関わる多くの問題を解決できますが、世界的に今後大きな問題となるのが人口増とそれによる食糧危機です。その解決策として期待されているのが新たな技術による「培養肉」です。

 シンガポールは、他国に先駆け2020年に「培養肉」の生産を認め、海外の代替タンパク質スタートアップ企業の誘致に力を入れています。JETROによると、シンガポールには30社以上の代替タンパク質を開発する企業が拠点を置いているそうです(2022年11月時点)。

シンガポールが抱える食糧問題とその解決策

 シンガポールに代替タンパク質ビジネスのスタートアップが集まる背景には、政府の積極的な後押しがあります。東京 23 区ほどの小さな国土のシンガポールは、農業用の土地や資源が少なく食料の90%を輸入に頼っています。スーパーでもシンガポール産の野菜や食品はほとんど見ることはありません。
 こうした状況に対してシンガポール政府は、食料自給率を2030年までに30%へ引き上げる目標を設定しました。

 そんな背景もあり、シンガポールは政府をあげて代替肉の開発や販売を後押ししています。政府は2020年に培養肉の生産を認め、同年12月には培養肉の販売を許可世界で初めて「培養肉」がシンガポールのレストランで提供されました。

シンガポールで培養肉を食べられる場所

9-3.png シンガポールでは、スーパーやファーストフード、カフェやレストランなどでも、特別なメニューではなく当たり前にプラントベース肉が使われたメニューがあります。プラントベース肉だけを扱っているお肉屋さんもあります。

 シンガポールは多民族国家で、宗教上の理由で元々菜食主義の方が一定数いること、欧米人(ベジタリアンの方が多い印象)も多く住んでいること、また前述した様な国をあげての食料自給率の引き上げ、地球温暖化防止、健康意識の高まりなども相まって、代替肉が一気に浸透したのではないかと思われます。

 しかしながら、次世代の肉として注目されている「培養肉」は、コスト(今はまだ高い)や味、栄養バランスなどの問題もあり、まだ試験的に提供している段階の様です。

 私も食べてみたいと思ったのですが、培養肉のメニューを提供しているレストランは限定されているため、数カ月間ウェイティングリストに登録しましたが、残念ながら現時点で食べることは叶っていません。今後、チャンスがあれば食べてみたいと思っています。

 経営企画室 平野