1.jpg 現在ドバイではCOP28(国連気候変動枠組み条約)が開催されています。
 既に日本では国をあげて、また自治体や企業などでカーボンニュートラルに向けた取組が進んでいますが、COP28を経てどんな変化があるのか要注目です!

 そして今回は、日本では見聞きする機会はあまりないと思われる、シンガポールのカーボンニュートラルの取り組みを紹介します。

シンガポールのカーボンニュートラル目標

2.jpeg 2022年10月、シンガポール政府は、2050年までにCO2排出量を実質ゼロ(ネットゼロ)とする目標を発表しました。
 それまでは、「今世紀後半に実現可能な限り早期にネットゼロを達成する」としていたのですが、この時に達成時期を明確にしました。

 また、これまではCO2排出量が2030年に6,500万トンでピークに達するとの目標を設定していましたが、排出量のピークを前倒しすることで500万トン削減し、2030年には6,000万トンにすることを目標に掲げています。2030年のCO2排出量目標を削減したことで、2050年にCO2を実質ゼロとする目標達成が可能になるとしています。

水素エネルギーへの大転換

3.jpeg シンガポールの発電燃料の約95%は天然ガスです。
 従来の重油と比べてクリーンな燃料であることから切り替えを進め、2000年には18%だった天然ガス発電の割合は、2021年には95%になりました。しかし、このまま天然ガスによる発電を続けていてはカーボンニュートラルを達成することはできません。

 代替エネルギーとしてまず思い浮かぶのは太陽光発電です。シンガポールでも太陽光発電はありますが、国土が狭く都市部が多いため、オフィスビルの屋上や貯水池の水上メガソーラーなどを設置しても限度があります。
 よくニュースで聞くのは、海外からの再生可能エネルギーの輸入で、シンガポール政府は2035年までに総供給電力の30%に相当する400万キロワットの輸入を計画しています。例えば、2022年にタイとマレーシアを経由し、ラオスから水力発電の輸入を開始しています。また、オーストラリアで太陽光発電された電力を4,200kmの海底ケーブルでシンガポールへ送電する計画や、2027年にはインドネシアからの太陽光発電の輸入も始まる予定です。

 さらに、シンガポール政府は、天然ガス依存の解消や脱炭素を見据えて、2050年までに発電用燃料の最大50%を水素にする「国家水素戦略」を打ち出しています。50%とは凄い量ですが、これによりインフラ整備への投資、技術革新や日系含む海外企業と現地企業の連携も進んでいる様です。

企業に課せられる「炭素税」と「スコープ3情報開示」

 シンガポールでは、2019年に東南アジア諸国で初めてとなる炭素税を導入しています。
 年間排出量が25,000tCO2e以上の産業施設に対して、現在は1トン当たり5シンガポールドル(約550円)ですが、今後段階的に課税を増やすことで、企業側の対策を求めています。

 -2019〜2023年:5 SGD(約550円)/ tCO2e
 -2024〜2025年:25 SGD(約2700円)/tCO2e
 -2026〜2027年:45 SGD(約5000円)/tCO2e
 -2030年までに:50 SGD~80 SGD(約5,500〜8,900円) /tCO2e

 また、2023年7月に、現在は上場企業の一部業種に限定している温暖化ガス排出量などの開示義務を、2025年にはすべての上場企業、2027年には非上場の大企業に対して、国際サステナビリティー基準審議会(ISSB)の基準に沿った気候変動関連の情報開示を義務づける方針です。

 具体的な開示内容は、「スコープ1(自社が直接排出したGHG)」と「スコープ2(他社から供給の電気、熱・蒸気を使用したことに伴う間接排出)」に加え、「スコープ3(取引先による原材料製造や輸送時などに出る間接排出)」まで求める方針です。
 上場企業に気候変動関連の情報開示を義務づける動きは世界で広がっていますが、非上場企業も対象としている国は英国などまだ一部で、シンガポールが導入すれば、東南アジア諸国連合(ASEAN)で初めてとなります。そしてさらに、「スコープ1」と「スコープ2」については、報告内容の外部保証が義務となる予定です。

 日本とは地理的な事情や国の規模、産業構造等も違うので単純には比較できませんが、シンガポールの戦略や技術革新は、参考になる部分も多いと思います。

 経営企画室 平野