粘土との出会い
私は大学で、粘土に関する研究を行ってきました。
「粘土」というと皆さんは何を思い浮かべますか?小さなお子さんが粘土で動物や人形を作ったり、趣味でろくろを回して陶芸するなどをイメージされるかもしれません。
粘土は農業において小さな主役だと思っています。その理由をこれからお話しします。
粘土って何者?
粘土は土の中に存在しています。土というものは土粒子、水、空気から出来ています。土粒子というものは、大きさにより粘土、シルト、砂、礫と名前が異なっています。このうち、直径が0.002mm以下と最も小さい物質を粘土と呼んでいます。
この粘土は単に細かいものではなく、岩石に含まれる元素であるケイ素、アルミニウム、鉄などが雨に溶け出して再結晶化したものが粘土になります。
そのため、粘土はマイナスやプラスの電気(荷電)を帯びており、表面積が非常に大きいという特徴があります。これらの特徴が、農作物の生育にとって重要な役割を果たしています。
粘土の役割
農作物にとって、粘土は土の中で以下の働きをしています。
①養分の貯蔵庫
植物の養分はアンモニウム、カリウムや硝酸、リン酸などイオンの状態で存在しています。粘土は、これらの物質を電気的な力で保持することで、降雨による下方への流出を防ぎ、土を肥沃化しています。
②水はけ、水もちの実現
植物の根は、呼吸することや水・養分を吸収することをおこなっています。呼吸を行うためには根の周囲に空気が必要であり、また水も保持する必要があります。つまり、水はけ、水もちを同時に実現する土が植物にとって理想的な土になります。
これを実現するためには、図に示す大きな間隙、小さな間隙がバランスよく形成されることが必要となります。この構造は団粒構造と呼ばれています。それは、間隙が小さいほど表面張力により水の保持力が大きくなります。一方、間隙が大きいと、水が下方に流れて水はけが良くなります。この間隙の大・小の形成に粘土が寄与しています。
③土の化学的緩衝作用
農作物にとって土の酸性化は生育を阻害するアルミニウムが溶け出す原因になります。粘土はpH(水素イオン濃度)の急激な変化を抑える緩衝作用の働きをしているため、アルミニウムの溶出を抑制する働きに寄与しています。
健康な土と食の未来
食料の多くが、土を必要とする植物に依存しています。健康な土は安全でおいしい食べ物を作ります。そのために、私は『地球のドクター』オオスミの一員として土の健康を見つめていきたいと考えています。