物質(モノ)は壊れるために存在する。
哲学的な言い回しのようですが、科学的な見解としても腑に落ちる点は多いのではないかと感じています。
壊れたジッパーの破断面の観察から
オオスミには、ナノの世界までをモニターに映し出す最新鋭の電子顕微鏡があります。
この顕微鏡で、衣類のファスナー部分に使われていた亜鉛ダイカスト*1製のジッパースライダー"の破片の破断面を見てみました。なお、ジッパーの保存状態は、良い状態ではありませんでした。
*1:ダイカスト:金型鋳造法のひとつで、金型に溶融した非鉄金属を圧入することにより、寸法精度が高く複雑な形状の鋳物を短時間に大量に生産することのできる鋳造方式のこと。
図1がその壊れたジッパーで約2cmほどの大きさです。そして図2が、その破断面の一部を実体顕微鏡で拡大した写真です。
図3が同じものを電子顕微鏡で見たもので、図4がその一部を拡大したものです
破断面の中央部分にクレーターのような凹みが存在しますが、これは延性破壊(大きく変形した後、くびれを伴って破断すること)の特徴です。その凹みを更に拡大してみると興味深い像が見られました。それが図5になります。
この拡大写真から、凹みの内壁には、結晶粒の隆起(図5:〇)がみられ、粒子の境界上には無数の小さな穴(図5:□)がみられました。不純物の残留によるものかはわかりませんが、この小さな穴は、凹みの内壁のみならず、破面全体で観察されました。
マクロ的な破面観察では、強い力で捻じ曲げられて壊れたようにもみえますが、製造過程における欠陥が起点とも思われる興味深い結果となりました。この場合、破面観察からのみで原因を特定することは難しく、他の試験もおこない調査する必要性があると考えられます。また、私の調べた限りでは、亜鉛ダイカスト製品の破面観察の事例は大変少ないそうです。
原因を推定してみると
他の亜鉛ダイカスト製品の破面観察では、この粒界中に見られる欠陥はほとんど見受けられなかったことから、今回は製造過程における微量不純物の混入による経年劣化が破壊の直接原因ではないかと考えられます。
モノは壊れるために存在するといえ、モノの寿命には、生まれた時にすべてが決まっているという運命的な要素が多くあるのだと実感しました。