河川の水質検査で水を採っていると道行く人に「水はきれいですか?」とか「泳いでも大丈夫ですか?」などとよく声を掛けられます。声をかけてくるのは決まって人生の大先輩なので、「一時期よりはきれいになっています」と長いスパンの話をしています。過去のデータを全て覚えておくわけにもいかないですし、"ゆく川の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず"とも言いますし。
 つまり、水質検査というものは、そのときに川から採って持ち帰った水が、「環境基準に適合していました」ということしか証明できないわけです。

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時間的な水質の蓄積を表すために考え出された「生物指標」

 そこで、考え出されたのが「生物指標」です。例えばイワナやヤマメは上流域の水のきれいな場所に住み、下流域のやや汚れた水にはコイやフナなどが暮らしています。このように棲んでいる生物の種類によって川の水質を評価しようとするものです。

イコールではない水質階級と指標生物の評価関係

 

 環境省の「全国生物調査」と国土交通省の「川の生き物を調べよう」と銘うって2006年に発表したのが下の表です。指標生物は川底に這っていたり,石の下に隠れていたりするものが選ばれています。

水質階級と指標生物の関係
水質階級 川の水のよごれ 種類数 指標生物
水質階級I きれいな水 10種類 アミカ類、ナミウズムシ、カワゲラ類、サワガニ、ナガレトビケラ類、ヒラタカゲロウ類、ブユ類、ヘビトンボ、ヤマトビケラ類、ヨコエビ類
水質階級II ややきれいな水 8種類 イシマキガイ、オオシマトビケラ、カワニナ類、ゲンジボタル、コオニヤンマ、コガタシマトビケラ類、ヒラタドロムシ類、ヤマトシジミ
水質階級III きたない水 6種類 イソコツブムシ類、タニシ類、ニホンドロソコエビ、シマイシビル、ミズカマキリ、ミズムシ
水質階級IV とてもきたない水 5種類 アメリカザリガニ、エラミミズ、サカマキガイ、ユスリカ類、チョウバエ類

 この表のなかの「アメリカザリガニ」は「とてもきたない水」に棲むとされますが、「きたない水」に棲むとされる「タニシ類」や「ややきれいな水」に棲むとされる「カワニナ類」と同じ用水路で同時に見つけたことがあります。この表が表すのは、水質階級=指標生物では無いからです。

 これらの調査には、調査結果集計表が添付されています。上記の29種類の生物が発見されたら○を付け、個体数の上位2種(大差が無い場合は3種)に●を付けます。その後、水質階級ごとに○と●(重みづけとして●1つは2つと数えます)の数を集計して最も数が多い階級をその水域の階級と判定することとしています。その他にも集計の仕方が数種類存在するようです。

好みは単純な水質検査

 こうしてみると観察だけで済む「生物指標」ですが、考え方は案外複雑で、私は個人的に絶対的な数値で評価する「水質検査」の方が性に合っているかなと思います。

分析技術グループ 三堀