私が携わっている異物解析業務は、簡単に説明すると異物(不明物)がどんな物質であるかを明らかにし、どのような理由でそこに存在するのかを調査する業務です。全ての案件を解決に導ける訳ではありませんが、主な原因は把握できるように思います。多くの案件では、異物(不明物)の中に何らかの痕跡が見つかることが多いからです。
例えば、錆(腐食生成物)の中には,腐食の由来となる元素が残っている場合があります。アルミニウムやステンレスの腐食生成物や孔食(腐食による穴)の先端部などには塩素(Cl)が残っていたり、塩素(Cl)を由来とする生成物となって存在します。このような痕跡を見つけ原因を把握することになります。
因みに、調査には、主にエネルギー分散型X線検出器付き走査電子顕微鏡(SEM-EDS)及び粉末X線回折装置(XRD)を用いることが多いです。耳かき1杯位の試料量があれば主成分となる物質は測定できます。
粉塵の由来を特定する
痕跡により場所を特定できる場合もあります。場所に特有の物質を見つけることができれば、
痕跡となりえます。よく粉塵などを分析するのですが、粉塵は情報の宝庫なのです(図1~図4参照)。
外観は、混色により灰色に見えるのですが、拡大してみると色々な鉱石が混合しているのが確認できます。SEM-EDS、XRDで分析してみると粉塵には砂の成分である石英、長石といったケイ酸塩類が良く確認できます。それだけでも、採取された粉塵は"砂"由来といえるわけですが、どこの砂かまでは特定できません。(長石の中には、斜長石、灰長石などがあり、その中にも何種類か存在し含有するナトリウムの量により種類が変わったりします。色々な物質が混合したような試料の中でそれらを識別することは難しいものとされています。)
しかしながら、粉塵の中に石英や長石以外に特徴的な物質が多く確認されれば、どこから生じた粉塵かを特定できます。その痕跡となる物質のひとつとして、炭酸カルシウムが挙げられます。
炭酸カルシウムはどこから来たのか?
実際に、色々な街中の砂塵を調査してみると炭酸カルシウムは多くは存在しません。コンクリートの主な成分であるため、どこにでもある物質のように思われますが、石英や長石に比べれば多くは存在していませんでした。秩父の武甲山(石灰岩を切出した山)の近くの砂塵であれば別かもしれませんが、都市部の砂塵には多くは確認できませんでした。
どのような場合に、痕跡となって残るのかというと、ビル解体などを行っている現場からは多くが検出されます。もしくは、過去にビル解体を行ったことのある現場の砂などです。条件にもよりますが、ビル解体現場から、飛散した痕跡といえると思います。
業務に限らず、生活の中でも"○○の痕跡!"などと思うことも良くあります。何でもそうですが、科学的根拠をもとにイメージを構築していく作業というのは楽しいものです。