PCBサンプリング.jpg2018年3月31日、ついにJESCO北九州事業エリアにて高濃度PCBを含有する変圧器とコンデンサの処分期限を迎えました。日本で最初に迎える処分期限ということで、処分し忘れがないかの掘り起し調査を数年間で念入りに行ったと聞いています。現在、東京エリアでも掘り起こし調査が行われております。関係各所の皆様は対応に追われているのではないでしょうか。

 次に迎える処理期限は2021年3月31日となります。これをもって、北九州・大阪エリアの高濃度PCB廃棄物はすべて処理されることになります。

 さて、当社が主に営業している関東圏においてもここ数年で変化がありました。PCB調査の仕様書が以前に比べて詳細に記述されるようになったことです。しかし、その仕様書はいわゆる使い回しのものも多く、目的に合致しないケースが見受けられます。PCB調査は多岐にわたるためなのか以前から混乱を生じていましたが、その混乱はまだ収まりそうにありません。

 本稿では私が良く遭遇する誤解について紹介したいと思います。本稿が誤解を解消する一助になれば幸いです。

分析方法の誤解

⑥-3 PCB分析.JPG よく誤解が見られるのが分析方法です。一言でPCB濃度分析と言っても、媒体や目的によって分析方法を使い分けなければなりません。PCB濃度の分析方法は1つではないのです。

 例えば絶縁油中のPCB分析を行う案件なのに、「低濃度PCB廃棄物に関する測定方法」による分析を指定しているケースがありました。本来、絶縁油中のPCB分析は「H4年厚告192号」もしくは「微量PCB簡易測定マニュアル」によって実施します。以前は「PCBの分析方法(JEAC1201-1991)※」でも実施されていました。

 一方「低濃度PCB廃棄物に関する測定方法」はPCBに汚染された廃棄物(木くず、廃プラスチック、廃金属等)についてどの程度汚染されているかを分析するための方法となります。この方法は分析する媒体も制定された目的も絶縁油のPCB分析とは異なるのです。そのため、この案件は分析方法の指定を誤っていることになります。

※絶縁油中のポリ塩化ビフェニール(PCB)の分析方法(JEAC1201-1991) 平成3年 ㈳日本電気協会

調査内容の誤解

 打合せ時によく誤解されるのは安定器のPCB調査です。よく「抜き取り調査」と呼ばれる調査がありますが、この表現が嵌り易い落とし穴となっていると感じます。安定器から絶縁油を「抜き取る」行為は解体に当たるとされており、このような解体は原則禁止されています。

 では何を抜き取るのかというと、同一性状の物が集まっているもののなかから代表性を確保した安定器を代表的な試料として「抜き取る」のです。PCB調査と言えば油を採取することだと認識されている方が多く、安定器を調査する案件でも油を抜き取ると誤解されているのだと思います。

 ただし、ややこしいことに安定器に使用されていたコンデンサから油を「抜き取り、(分析)調査」するケースもありえます。先述のことと矛盾しているようですが、実際の現場では想定外の状況も多く、適した調査方法を検討しなければなりません。こちらの抜き取り(分析)調査は例外的な事例なのですが、調査内容を誤解する原因になっていると感じます。

塗膜分析方法の誤解

 最近のPCB調査でスポットが当たっている媒体は塗膜だと思います。
そんなところにPCBが使われているの?と驚かれる方もいらっしゃるかもしれません。
平成30年11月に環境省から高濃度PCB含有塗膜調査実施要領が出ております。これは塗膜が高濃度PCB廃棄物かどうかを確認することを目的としています。しかし、所有者の方のなかにはその塗膜がPCB廃棄物に該当するのかどうかをお悩みになっている方もいらっしゃるのではないでしょうか。

 このような状況でよく誤解されるのが分析方法の選択です。
塗膜中のPCBが懸念されはじめた頃は塗膜に適した公定分析法も比較する基準値もありませんでした。

 そこで「底質調査方法」を準用する調査が見受けられました。現在『塗膜 PCB 分析方法』というワードをインターネットで検索すると「低濃度PCB廃棄物に関する測定方法」がヒットすると思います。しかしこの分析方法は先述のとおりPCB汚染物を対象に制定された分析方法でした。元来の目的は高濃度PCB廃棄物なのか低濃度PCB廃棄物なのかを判定することでしたので、対象塗膜がPCB廃棄物に該当するのかを判定するための基準値がありませんでした。そのせいか、他の媒体の基準値を数値だけ引用しているケースをしばしば見かけました。

 このような中、2019年10月に環境省通知が出されました。この通知により「低濃度PCB廃棄物に関する測定方法」でも条件付きでPCB廃棄物に該当するかどうかを判定できるようになりました。さらに2019年6月に環境省から塗膜の調査方法について事務連絡が周知されております。依然としてPCB調査方法に関して整備されているとは言えない状況です。

 どのような調査を実施して、どの分析方法を選択し、何の基準値と比較して評価するのか。実施の際は内容を十分に検討しておかないと目的に合致しない調査になる可能性があるため注意が必要です。

処分費用の誤解

img_pcbhaiki.jpg 最後に所有者の方が廃棄を検討する際にも誤解が見受けられます。一概にPCB廃棄物といっても、高濃度PCB廃棄物と低濃度PCB廃棄物に分けられます。低濃度PCB廃棄物の処理は民間の許認可業者に委託しますが、高濃度PCB廃棄物は現時点ではJESCOに委託するしかありません。

 この区分を考慮せずに「前回のPCBの処理費用はこれくらいだったから...」と予算を立てしまうと、実際の処理費とは桁違いになります。所有者の方にとっては非常に煩わしい話ではありますが、過去の仕様や金額ありきではなく当該廃棄物の現状に合せた計画・予算取りが必要となります。

 高濃度PCB廃棄物の最終的な処理期限は令和5年3月です。スムーズに処理を進めるためには適切な調査・適切な処理計画が必要不可欠です。

 調査第三グループ 西江